この7月末、熊本で震度7の地震がありました。
それから、耐震についてのご質問がとても増えています。
いちばん多いのが「この家、耐震等級は取っていますか」で、答えが「取っていません」だと、そこで不安になってしまう。
でも、等級を取っていないことと、地震に弱いことは同じではありません。
実は新築の3戸に2戸は、いまも等級を取っていません。
そして、等級を取っていない家がどれくらい地震に耐えたかは、10年前の熊本で実際に数えられています。
その数字と、2025年に変わった建築基準法の話をします。
まず、耐震等級とは何か
西区・生の松原の千代今宿通り。この通り沿いに建つ家も、建った年で守られ方が変わります(2022年11月撮影/Hirho・CC BY-SA 4.0)
耐震等級は、建築基準法とは別の「住宅性能表示制度」という仕組みの中の、ひとつの表示項目です。
正式には「耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)」といって、地震に対する倒壊のしにくさを3段階で表します。
ここがいちばん大事なところです。
等級1は「建築基準法と同じ」。
つまり等級というのは、ゼロから始まる点数ではなく、建築基準法を1として、その何倍かを表すものさしです。
等級を取っていない家は「0」ではなく、法を守って建てられている限り、等級1にあたる強さで設計されています。
そして、等級を取ること自体が任意です。
国土交通省の発表では、2024年度(令和6年度)に設計住宅性能評価書が交付されたのは279,010戸。
同じ年の新設住宅着工は816,018戸なので、交付割合は34.2%でした。
9年連続で増えていて過去最高の数字ですが、裏を返せば、いまも3分の2は取っていません。
取っていないほうが、まだ多数派なのです。
では、等級を取っていない家はどれくらい耐えたのか
2016年の熊本地震のあとの益城町中心部。この一帯が、以下で使う1,955棟の調査範囲です(2016年5月撮影/hyolee2・CC BY-SA 3.0)
2016年の熊本地震のあと、日本建築学会が益城町の中心部で悉皆調査をしました。
悉皆調査とは、範囲を決めて、その中の建物を1棟も飛ばさず全部数えるやり方です。
木造1,955棟を含む2,340棟が対象になり、国の委員会がその結果を報告書にまとめています。
木造1,955棟を、建てられた時期で3つに分けた結果がこれです。
倒壊・崩壊した割合が、28.2% → 8.7% → 2.2%。
無被害だった割合が、5.1% → 20.4% → 61.4%。
震度7が2回きた場所で、この差です。
そして、ここからが本題です。
同じ調査から、2000年6月以降に建てられた家のうち、等級を取っていないものだけを取り出した数字が公表されています。
「等級を取っていない家」というのは、この表の注記では「住宅性能表示未取得物件および耐震等級1のもの」と定義されています。
その301棟のうち、6割が無被害で、倒壊は7棟(2.3%)でした。
国の委員会の総括にも、こう書かれています。
「接合部の仕様等が明確化された2000年以降の倒壊率が低く、接合部の仕様等が現行規定どおりのものは、今回の地震に対する倒壊・崩壊の防止に有効であったと認められる」。
そして等級3については「大きな損傷が見られず、大部分が無被害であった」。
数字だけを見れば、等級3のほうが被害は小さく出ています。
一方で、等級を取っていない2000年以降の家も、震度7を2回受けて6割が無被害でした。
「等級を取っていない=弱い」とは言えない、というのがこのデータの読み方です。
効いているのは「等級」ではなく「いつ建てられたか」
上の表を見ると、差をつくっているのは等級の有無より、建てられた時期だと分かります。
建築基準法には、木造住宅にとって大きな分かれ目が3つあります。
2000年の改正が効いた理由は、報告書の中にはっきり書かれています。
益城町で倒壊・崩壊し、接合部の状況が確認できた1981〜2000年の木造住宅は、すべて2000年に決まった接合部の仕様を満たしていませんでした。
壁の量が足りていても、柱と土台をつなぐ金物が弱ければ、引き抜かれてしまう。
そこが2000年に埋められたということです。
2025年4月に、何が変わったのか
これが「いま建築基準法が厳しい」の中身です。
きっかけは、実は地震ではなく省エネでした。
国土交通省の資料には、こう書かれています。
「断熱性能の向上や階高の引き上げ、トリプルガラスサッシ、太陽光発電設備等が設置される場合には、従来に比べて重量が大きく、地震動等に対する影響に配慮が必要」。
省エネ性能を上げるほど家は重くなります。
重い家は、地震のときに大きな力を受けます。
そこで、基準のほうを実態に合わせた、という流れです。
2025年4月1日から変わったこと
1. 木造2階建ても、構造の審査を受けるようになりました
それまでは、建築士が設計した2階建て以下・延べ面積500㎡以下の木造住宅は、建築確認のときに構造の審査が省略されていました(いわゆる4号特例)。
いまは、審査が省略されるのは「平屋かつ延べ面積200㎡以下」だけです。
普通の木造2階建ての一戸建ては、構造の図書を出して、第三者のチェックを受けます。
2. 必要な壁の量の計算方法が変わりました
これまでの「軽い屋根」「重い屋根」という大ざっぱな区分をやめ、屋根・外壁・床の重さに加えて、天井の断熱材・外壁の断熱材・高断熱の窓・太陽光発電設備の重さを個別に足し上げて、その家に必要な壁の量を計算します。
使える壁の上限も、壁倍率5倍から7倍に上がりました。
3. 無筋コンクリートの基礎が使えなくなりました
それまでは、しっかりした地盤なら鉄筋の入っていないコンクリート基礎でもよいことになっていました。
いまは地盤の種別にかかわらず、鉄筋コンクリートの基礎です。
壁の量の基準だけ、1年の猶予がありました
審査省略の見直しは2025年4月1日から始まりましたが、壁の量と柱の太さの基準だけは経過措置があり、2025年4月1日から2026年3月31日までに工事に着手するものは、改正前の基準でよいことになっていました。
つまり2026年4月1日以降に着工する木造2階建てから、新しい壁の量の基準が完全に適用されます。
いま計画中の家は、ここに入ります。
なお、どちらの基準で建てたかは、確認申請書と建築計画概要書に記載欄があります。
建築計画概要書は、福岡市役所4階で誰でも無料で見られる書類です。
警固断層の記事で書いた、あの書類と同じものです。
「福岡は0.8だから弱い」ではありません
警固断層の記事を読んでくださった方から、この質問をいただきました。
建築基準法の構造計算では「地震地域係数」という数字を使い、福岡は0.8、関東や東南海などは1.0です。
だから福岡の家は8割の強さしかないのではないか、と。
これについて、熊本地震の委員会報告書に答えが書かれています。
「大きな被害を受けた木造の小規模な建築物については、地震地域係数を用いないいわゆる壁量計算などによって設計されている」。
そして「今回の分析の範囲では、地域の被害状況に地震地域係数の影響は確認されなかった」。
つまり、木造の戸建てが使う壁の量の計算に、地域係数は入っていません。
2025年4月からの新しい計算式にも入っていません。
この点では、福岡も東京も同じ計算です。
地域係数が効いてくるのは、構造計算をする大きな建物のほうです。
だからこそ福岡市は、警固断層の近くの高さ20m超の建物に限って、係数を1.25倍する努力義務を条例で課しています。
正直に、書いておきたいこと
建築基準法は「倒れない」であって「無傷」ではありません
同じ報告書には、こう書かれています。
「建築基準法令は、建築物の構造等に関する最低の基準を定めたものであり、今回の熊本地震のような大地震に際し構造部材や非構造部材等において損傷が生じないことや、被災後に継続して使用できることまでを要求しているものではない」。
実際、熊本地震では、倒れなかったけれど損傷のせいで使い続けられなくなった庁舎・体育館・病院・共同住宅がありました。
建築基準法が守ろうとしているのは、まず命です。
そのあとの暮らしまでは約束していません。
それから、2000年以降でも7棟が倒壊しています。
その内訳も報告書に書かれていて、3棟は接合部の仕様が不十分、1棟は敷地の崩壊と基礎の傾斜、残る3棟は原因が特定できませんでした。
基準が変わっても、そのとおりに施工されていなければ意味がない。
年代は目安であって、保証ではありません。
1981年から2000年の家には、国が用意したチェック法があります
いちばん判断に迷うのが、この年代です。
新耐震ではあるけれど、接合部のルールが決まる前。
この年代のためだけに、「新耐震木造住宅検証法」という方法が国の要請でつくられています。
対象は、1981年6月1日から2000年5月31日までに建てられた、在来軸組構法(基礎がコンクリート造)の平屋または2階建てです。
まず持ち主が自分でできる4つのチェック
1. 平面と立面が比較的整った形をしているか
2. 柱の上下の接合部に、接合金物が設けられているか(床下や天井裏の写真で確かめます)
3. 壁の配置のバランスが良いか
4. 建物が著しく劣化していないか
1〜3をすべて満たし、4が5点満点で4点以上なら「一応倒壊しない」と判定されます。
ひとつでも欠けるか、4が3点以下なら「専門家による検証が必要」。
その次の段階では、専門家が現地調査をせずに、図面と持ち主の調査結果だけで評点を出す方法が用意されています。
費用を抑えるための仕組みです。
もうひとつ、この年代の家で手がかりになることがあります。
当時の住宅金融公庫(いまの住宅金融支援機構)の融資を受けて建てられた木造住宅について、同じ資料はこう書いています。
「建築基準法に基づく確認検査に加えて第三者による設計審査や現場検査が実施されていること、工事仕様書により接合部が一定強度以上の仕様となっている可能性が高いこと(略)などを考慮すれば、一般的には一定の耐震性能が確保されているものと思われる」。
ただし同じ資料は、劣化の状況の調査をはじめ、耐震性能の検証を行うことが推奨される、とも書いています。
この年代の家は、いちばん新しいものでも築25年を超えています。
等級を取る意味は、地震のときだけではありません
ここまで「等級がなくても大丈夫」という話をしてきましたが、等級を取ることには別の実利もあります。
地震保険料の割引は毎年かかってくる費用に効きます。
新築を建てる場合、等級を取るかどうかを検討されるなら、こうした制度も材料のひとつです。
それぞれの適用条件は年度で変わるので、そのときの要件をご確認ください。
7月末の地震で、福岡でも被害が出ています
最後に、いま多くの方が気にされている7月末の地震について、数字だけ置いておきます。
令和8年熊本地震は、2026年7月28日16時27分に熊本県熊本地方で発生しました。
マグニチュード7.1、深さ約16km。
最大震度7を宇城市と氷川町で観測し、有明海・八代海に津波注意報が出ました(同日18時10分に解除)。
その後も震度5弱の地震が5回起きています。
福岡県でも負傷者が2人、一部破損が8棟。
震源から100km以上離れていても、被害はゼロではありませんでした。
なお、この数字は速報値で、今後変わります。
まとめ:気になったら、こう見ます
耐震が気になる物件があったら
まず見るのは建築確認を受けた日です。
1981年5月31日以前か、1981年6月〜2000年5月か、2000年6月以降かで、意味がまったく違います。
ここは登記簿の新築年月では分かりません。
確認済証・検査済証・建築計画概要書・設計図書のどれかが要ります。
ここは私たちに聞いてください。
・2000年6月以降なら、益城町の調査では等級がなくても6割が無被害でした。
ただし倒壊した7棟のうち3棟は接合部の施工が原因です。
年代は目安であって、その家の保証ではありません。
・1981年〜2000年なら、「新耐震木造住宅検証法」の4項目を見ます。
特に接合金物です。
・1981年5月以前なら旧耐震です。
福岡市の補助(耐震改修は経費の80%・上限150万円ほか)が使えるかを一緒に確認します。
・新築を建てるなら、2026年4月以降の着工は新しい壁量基準です。
「耐震等級は取っていますか」は、良い質問です。
ただ、その答えが「いいえ」でも、そこで話は終わりません。
本当に効いてくるのはいつ建てられて、どう造られたかのほうです。
気になる物件があれば、私たちに聞いてください。
出典